映画「インセプション」を見た。
この作り込まれ具合をみると、クリストファー・ノーラン監督にファンが大勢つくのは本当によくわかる。
観るのは2回目になるのだが、ここ1ヶ月、夢に関する探求をして、夢に関する映画をみようと思って観た。
(夢に関する記事はこちら↓)
この映画においても、フロイトやユングが述べているように、夢=無意識となっている。
レオナルド・ディカプリオ演じるコブが、夢の中で亡くした妻モルが現れ、狂わすのは、コブが抑圧された欲求や感情の現れ。典型的な夢だ。
また、基本的には夢であると自覚している明晰夢が基本となっている。
さらに、夢に階層構造があることは、発達理論的にもありうる話で興味深い。
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物事の多面性
この映画で恐ろしいことの1つは、モルが現実世界にも関わらず、現実世界でないように感じてしまい自殺してしまったことだ。
コブが夢の世界から目覚めるために、「死ぬことで現実に戻れる」ということを、夢の中で良かれと思ってモルに言ったことが、インセプション(植え付け)として現実世界でも残ってしまい、現実世界にも関わらず勘違いしてモルは自ら死を招いてしまった。
物事の多面性がここに出ている。
今回のコブのミッション、渡辺謙演じる斎藤から、競合会社を潰すというインセプションも、一面的には斎藤によって良いことのように思うが、実際本当に良いのかは多面的であるためにわからない。
現に、斎藤は夢の中で虚無に落ちてしまっていた。
以前見た映画「メッセージ」においても、過去や未来がわかるがゆえに、現実を変えてしまう話があった。(娘が病気で死ぬことを夫に言ってしまうことで別れてしまう。)
どちらも共通して、自分のエゴで変えてしまう行為が倫理的に良いのか、問いておきたい。
高い倫理観と、社会からの影響への自覚化
また、インセプションの映画の中で、他者の夢に入り込むという発想がおもしろい。
コブたちは、他者の夢に入り込んで、無意識からアイデアを盗む「エクストラクト」や、無意識にアイデアを植え付ける「インセプション」を行う仕事をしているわけだが、これは見方によっては、セラピストも同じことをしているのではないかと思う。
セラピストも、無意識にアクセスしてクライアントが本当に望んでいることを引き出したりする。
ここにもセラピストの言動次第によって、クライアントに恣意的になにかのアイデアを洗脳させる可能性がある。
ましてや何度もやりとりをして関係性を深めれば深めるほど、クライアントにとってセラピストの影響力は高まる。
セラピストとしての高い倫理観がいることを改めて感じる。
また、このことは見方をかえると、人間の無意識というのは簡単に洗脳されるということだ。
ナオミ・クラインのショック・ドクトリンを始め、人間がいとも簡単にマインドコントロールされることは心理学、医学など科学的にも研究結果は多く出ている。
ナチスにおいてユダヤ人を平気で迫害できたこともそうであるし、日本においてもつい80年ほど前には、戦争に反対すれば非国民扱いされることが当たり前の価値観になっており、人間の意識が簡単に洗脳されてきた。
「洗脳されてきた」と過去形にしているが、今でも私たちは自分が気づかぬところで、洗脳されているのである。
インセプションのように、ここが現実ではなく夢であると気付けるように、私たちは何かしら社会から影響を受けているということを自覚的にならねば、洗脳されていることに気付けない。
インテグラル理論というのは、その気付きを得るための理論であるとも言える。
そんなことをこの映画から感じた。
2021年5月4日の日記より
2021年5月6日