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日記「あじわい」

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サーキュラーエコノミーの光と罠。実践上の注意点#414

近年、世界中で、サステイナブル、リジェネラティブなビジネスとして注目されつつある「サーキュラーエコノミー」。

これまでの廃棄を出す「リニアエコノミー」から、廃棄を出さない循環型の経済モデル(ビジネスモデル)を示す。

日本においても、2020年にようやく、経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を公表して、サーキュラーエコノミー政策の基本方針が示された。

事例としては、わかりやすいのが、オランダのジーンズ会社のマッドジーンズ。

「世の中からジーンズが捨てられる慣習をなくすこと」を理念に、ジーンズを月額リースのビジネスモデルになっている。

顧客は、ジーンズが破れたり、体型に合わなくなった場合に返却や修理ができる。マッドジーンズは、履かれなくなった使用済みのジーンズを回収して繊維に戻し、新しいジーンズを製造する。

これまでの消費して廃棄という一直線(リニア)なモデルではなく、廃棄がない循環のビジネスモデルになっている。

サーキュラーエコノミーの光

サーキュラーエコノミーは、サステイナブル、リジェネラティブなビジネスをおこなうにあたり、これからのビジネスに欠かせないモデルである。

世界中を見れば、事例がいくつも出ており、これがかなり参考になる。

今回は、探求仲間とともに、安居昭博さんの「サーキュラーエコノミー実践」という書籍の読書会をしたが、重要なコンセプトや事例が豊富でかなり面白い。

ぜひおすすめしたい。

社会課題をビジネスで解決するにあたり、欠かせないポイントは、「経済成長」と「環境負荷」の分離(デカップリング)にある。

安居の本でもこのように書かれている。

大量生産・大量廃棄を前提としていたリニアエコノミーでは、経済成長と環境負荷は比例関係にあり、経済発展には環境負荷が伴うと捉えられていた。しかし、エレン・マッカーサー財団等の調査によると、企業がサーキュラーエコノミーの移行を進めることによって経済は右肩上がり(成長)しつつも、環境負荷(減少)が達成できることが明らかになっている。

安居昭博さんの「サーキュラーエコノミー実践」P53

実際、先ほどあげたマッドジーンズでも、古いジーンズを活用することで、新しいジーンズを作るためのコットンが従来の60%で済んでいる。

事業の成長と環境負荷が同時実現されている。

サーキュラーエコノミーの闇

さて、一方で、少し冷静になってほしい。

物事には、絶えず光と闇の二面性がある。

すぐにこういった魅力的なものは、どうやって行うかに走るのだが、その前に、冷静に問いたい。

サーキュラーエコノミーの闇(盲点、限界点、弱点など)はなにだろうか?

常に新しいことの光だけがフォーカスされて失敗してきたことがごまんとあるため、サーキュラーエコノミーも、これから広がっていくにあたり、いかに闇の側面を押さえておけるかが重要に思っている。

ゆえに、私個人の見解をいくつか残しておきたい。

ジェヴォンズのパラドックス

1つ目は、ジェヴォンズのパラドックス。

19世紀のイギリスの経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ
石炭問題でパラドックスを提起した。

当時イギリスは、石炭を効率的に利用できるようになっていた。

たとえば、わかりやすい話、1ヶ月で100の石炭が必要だとするものを、
技術革新などで80ですみ、20も効率化されて使わなくて済む。

これで、今まで以上に環境負荷を減らせると思った。

しかし、実際には、石炭の消費量が減ることはなかった。
むしろこれまで以上にいろんなところで使われるようになってしまった。

現代でいえば、テレビを省エネ化したが、人がより大型のテレビを購入するようになったせいで電気消費量はむしろ増えた。

車の燃費向上によって、軽自動車より普通車へ、より利用するようになった。

結局、消費量の増加によって相殺、あるいはそれ以上に悪化してしまうことさえある。

これが、ジェヴォンズのパラドックスだ。

地球全体の負荷

また、イギリスの環境経済学者 ティム・ジャクソンは、経済成長と環境負荷のデカップリング(分離)なんて神話だと言っている。

先進国の取り組みは、グローバルサウスや別の領域、あるいは未来に負荷が転嫁しているわけだ。

一国や先進国の単位で環境負荷が減っていても、世界全体でみれば減っていないことが起こる。

たとえば、わかりやすい話は、家畜がもたらす環境破壊から、大豆ミートに変えていくことにしたとする。しかし、大豆ミートをつくるために、さらに森林を伐採しまくっていれば、問題が転嫁したに過ぎない。(もちろんこの場合、負荷の絶対量として減少していることもあるかもしれないが)

事例

安居さんの「サーキュラーエコノミー実践」で書かれている事例をみても、上記観点でいうと、いくつか気になることはある。

たとえば、インストック(Instock)という廃棄食品レストラン。

賞味期限切れ等の理由で廃棄されてしまう食材を地域のスーパーマーケットやベーカリー、生産者から調達し、調理・提供しているレストランになる。

しかし、ジェヴォンズのパラドックスでいえば、このレストランが運営されることによって、人の心理として、廃棄量の減少が鈍化しないだろうか?最悪のケース増えるということはないだろうか?

本来であれば、廃棄量そのものを減少することが何よりも重要であるわけだ。

【ポイント①】絶対量の把握と、リデュース

サーキュラーエコノミー自体を非難したいわけではない。むしろ、これから超重要であるからこそ、実践する上で、上記の懸念点を踏まえて、押さえておきたいことを注意点を書いていきたい。

まずはともあれ、リデュースが何よりも大事。

それが商品は、人間にとって本当に必要なのだろうか?とぜひ問いたい。

これまでの経済は、ニーズがあるから経済が成長するように見せかけているが、逆である。経済成長(事業拡大)させるためにあらぬ洗脳をさせてニーズ喚起してきたのだ。

だから、本当にそれが人間にとって必要なのかを問いたい。

また、リデュースに向けては、全体の絶対量が減少していっているかは、ぜひみておきたい。ここは、テクノロジーの進歩があってなせる技。それこそグロックチェーンの管理活用もいいだろう。

【ポイント②】より大きなシステムを捉える

それから、循環型のシステムを描いても、別で負荷を増加や転嫁するルートがあるかもしれないことから、より大きなシステムを捉えていくことは重要だろう。

【ポイント③】事業運営と訴求方法の健全化

また、事業運営と訴求方法の健全化は大きなテーマだと思う。

たとえば、先にあげた廃棄食品レストランのインストックであれば、従来廃棄されるものを資源として活用して、料理を振る舞うのだが、闇の側面として、この事業があることで、人々が廃棄をしててもいいんだという心理にならないようなコミュニケーションをしてほしいと思う。

だって、本来廃棄をなくすことが重要だからだ。

ここに1つの矛盾を生じる。

廃棄物が減れば、事業が成り立たなくなる。

そのため、いつの間にか、廃棄物を集めるようなコミュニケーションをし続けると、これこそ、本来ビジネスは手段であったはずなのに、事業継続が目的化されてしまい、本末転倒になってしまう。

ここにこの矛盾や葛藤ときちんと向き合えるメンタリティを育むことが欠かせないだろう。

少し脱線するが、私の関係者にも、SDGsを推進する会社や担当者がいる。

この時、SDGsを推進する理由が、「このままだと若い人採用できないよ」、「SDGsやらないと売り上げ下がっちゃうよ」というようなコミュニケーションが果たしてどうなんだろうかと思う。

そんな気持ちで進めたら、負荷の転嫁のオンパレードだ。

本来目的を考えると、全くいけてないわけだが、相手の文脈にあわせないと、広がるものも広がらないためにそういっているのはわかる。

であれば、百歩譲って、入口としてはそういう訴求(コミュニケーション)方法でいくが、どこかで、本来の目的を伝えることを知っていてほしいと思う。

それが健全なコミュニケーションに思う。

ここまで、実践上の注意ポイントをあげてきたが、やはり事業運営者の発達段階を高めていくことはどこ問題にも欠かせないだろう。

より健全な形でのビジネスが進めばと心から思う。

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